東京高等裁判所 昭和46年(う)3345号 判決
被告人 本橋祥典
〔抄 録〕
所論は、右各被告人の供述調書の取調前に、被告人の司法警察員に対する供述調書は任意性がないものであるから、同調書に対する同意は錯誤によるものであってこれを取り消す旨陳述したにかかわらず、その取調がなされ、また、被告人の検察官に対する供述調書は、任意性のない司法警察員に対する右供述調書に準拠して作成されたものであって、証拠能力がないものであるから、これらの供述調書を証拠として採用した原判決には、訴訟手続の法令違反があると主張し、記録中、弁護人の弁論再開申請と題する書面(一〇二丁)および異議申立調書(一一〇丁以下)に、原審第二回公判調書によれば、司法警察員に対する被告人の供述調書は、弁護人においてこれを証拠とすることに同意した旨の記載があるが、これは錯誤によるものであるから取り消す、右供述調書は、任意性がないからこれを証拠とすることに同意することはできない。右取消の表示は第三回公判においてその取調前にしたが調書にその記載がないので、さらにここに陳述し、あるいは、異議申立をする旨の記載ならびに原審が右異議申立を却下した記載があるので、この点について検討すると、前記説明のとおり、被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書につき、被告人および弁護人の同意があったのは、原審第二回公判においてであり、原審がこれを取り調べたのは、同第三回公判においてであることが明らかであり、所論は第三回公判において被告人の司法警察員に対する供述調書の取調前に錯誤を理由として第二回公判においてした同意を取り消す旨主張するのであるが、訴訟行為は手続の混乱を避けるため明文のある場合のほかその撤回(取消)を許さないものというべきところ、書証につき証拠とすることについての同意も、その撤回(取消)につき明文がなく、書証に証拠能力を付与する訴訟行為として、その同意が錯誤にもとずくことを理由として、一たんなされた同意をのちに撤回(取消)することを許されないものと解すべきであり、所論の被告人の司法警察員に対する供述調書についての錯誤を理由とする同意の撤回は、その効力を生ずるに由がないものであるから、原審が右主張を排斥して異議申立を却下したのは相当であり、その撤回が有効であることを前提とする所論は到底これを採用することができない。
(真野 吉川 伊東)